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「年内学力入試」の拡大と教育現場の葛藤 ~首都圏私立大23校の新規導入に見る入試前倒しの是非~

急拡大する年内学力入試の現状
大学入学の前年秋以降に行われる学校推薦型選抜や総合型選抜などの「年内入試」において、学力試験を課す大学が急増しています。代々木ゼミナールの調査では、今年度は首都圏の私立大学23 校が新たに導入し、昨年度から継続する14 校と合わせると、首都圏私大の約2 割が実施する見込みです。
転機は2024 年度入試で東洋大学が導入したケースでした。文部科学省が設けていた「学力試験は2月1日以降」というルールに反するとして批判を受けたものの、募集人員578人に対し約2万人の志願者を集め、他大学の追随を促しました。
文科省は当初関西圏での前例を黙認していましたが、今年6 月に2026 年度からの公式容認を発表し、複数評価方式との組み合わせを条件に解禁する方針へ転換しました。
大学側の戦略的思惑
年内学力入試導入の背景には、少子化による熾烈な学生確保競争があります。
① 優秀層の早期囲い込み、② 基礎学力を客観的に測る仕組みの二点が大きな狙いです。
- 昭和女子大学は2026 年度より「公募制推薦入試 基礎学力テスト型」を11月に全国4会場で実施予定。
- 関東学院大学も総合型選抜に「基礎学力評価型」を新設。
高校教育現場からの強い反発
全国高等学校長協会は今月1 日、「高校教育活動を阻害しかねない」と意見書を公表。高校2年後半から受験対策に追われることで、学校行事や探究活動の空洞化が懸念されています。
一部大学では配点の9 割を学力試験が占め、実質的に一般選抜の前倒しとなるケースも。協会は「抜け道探し」と厳しく批判しています。
文科省の苦肉の策と新ルール
昨年12月の期日厳守通知から一転、今年6月には条件付き容認へ。ポイントは以下の3点です。
- 学力試験に小論文・面接を必ず併用
- 調査書など出願書類との総合評価
- 多面的・総合的な評価で2026 年度から正式解禁
受験生にとっての光と影
メリットは、早期合格による精神的安心と授業の延長線上で対策しやすい点。合格後の準備期間も確保できます。
一方デメリットとして、学習意欲の低下や高校教育の空洞化、幅広い進路検討機会の損失などが挙げられます。朝日新聞「Thinkキャンパス」の中村正史氏は「年内決定と一般選抜挑戦の二極化が進む」と分析しています。
問われる教育の質保証
年内学力入試は入試制度の大きな転換点となり得ますが、最重要課題は高校教育の質と大学入学後の学習意欲をどう維持するかです。大学・高校・文科省が連携し、学生の成長に資する制度設計が求められています。
参照リンク
- 代々木ゼミナール「首都圏私立大 年内学力入試調査」(掲載日不明、2025年7月28日アクセス)
- 文部科学省「2026年度大学入学者選抜実施要項のポイント」(2025年6月公表、2025年7月28日アクセス)
- 朝日新聞 Thinkキャンパス 特集(2025年7月掲載、2025年7月28日アクセス)
※リンク先は変更される場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。
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担当:プロ教師 近江直樹